タックマンモデル(Tuckman's stages of group development)
まず知る
- タックマンモデルは、Tuckman が1965年に50本の既存研究をまとめて提案したもの。本人のチーム観察から生まれたわけではない。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf、https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- 元の4段階は「形成・混乱・統一・機能」。5つ目の「散会(Adjourning)」は1977年に Jensen と共著で追加した。(出典: https://doi.org/10.1177/105960117700200404)
- 元の文献は治療グループ中心で、Tuckman 本人が「一般化には注意」と書いている。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- 根拠は中〜弱。段階に一部支持はあるが、期限のある仕事のチームは「中間点で一気に変わる」という研究(Gersick 1988)もある。(出典: https://explore.psychsafety.com/n/gersick-1988/)
- 「各段階でリーダーはこう関わる」という処方は後の実務家が付け足したもの。今の状態を話し合う共通の言葉として使い、段階に当てはめて決めつけないのが安全。
根拠の強さと限界
評価: 中〜弱(「集団に段階らしきものがある」という記述には一部支持があるが、順序の普遍性と、使ったときの効果は検証されていない)。
- 元の根拠: 自分の観察でも実験でもなく、既存50本の文献の整理。しかもその文献は治療グループ中心で、質的な単一グループ観察が多いと本人が認めている。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- その後の検証: 本人の1984年解説によると、Runkel ら (1971) が「Tuckman の仮説の実証的検証」を行った(Journal of Applied Behavioral Science 7, 180-193)。検索結果の要旨では、オレゴン大学の学生の作業グループを観察し、当てはまりは「非常に良い」とされる(論文本体は未開封、要旨は検索結果経由)。1977年の見直し(22本)でも4段階はおおむね支持とされる。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf)
- 反証的な研究: Gersick (1988) "Time and transition in work teams", *Academy of Management Journal* 31(1), 9-41。8つの実際のプロジェクトチーム(6組織、期間7日〜6か月)を全期間追跡した。チームは最初の会議で進め方を決め、それを期限までの中間点まで続け、中間点で一気に方向転換した(断続平衡モデル)。順番に段階を踏むのではなく、期限への意識が転換のきっかけだった、という結果(explore.psychsafety.com の要約で確認。MIT の PDF は画像のみで本文は読めず未確認)。同要約は「標本は少なく無作為でない」とも注記している。(出典: https://explore.psychsafety.com/n/gersick-1988/)
- 介入効果: 「タックマンモデルを使って関わるとチームの成果が上がる」ことを示す比較研究は見つからなかった(未確認)。
- 総説: Bonebright (2010) "40 years of storming", *Human Resource Development International* 13(1), 111-120 という歴史的レビューがあるが、書誌と内容は検索結果と学生ブログ経由のみで未確認。(出典: https://doi.org/10.1080/13678861003589099)
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- ベジクル株式会社(日本)/2025年10月21日実施、2025年11月21日公開/自社の Wantedly 記事 https://www.wantedly.com/companies/vegekul/post_articles/1024186 /取締役の岩崎氏が進行し、部署横断の18人で約2時間の社内チームビルディング研修。タックマンモデルの5段階を説明し、自分のチームがどの段階かを考えた上で、フラフープを指先で支えて床まで下ろすゲームを実施。/結果: 「混乱や摩擦は避けるものでなく成果に必要なステップ」という学びを報告。数値の成果は無い。
- Atlassian(エンジニアリング部門)/ブログ表示日 2021年11月17日(Bernie Ferguson 氏)/公式ブログ https://www.atlassian.com/blog/teamwork/navigate-tuckman-stages-of-team-development /自社の複数の開発チームが、大規模で複雑なインフラ案件に取り組んだ際、リスクと依存関係の多さから、すでにまとまっていたチームが「storming」に入り、結果的に非生産的な動きになったと自ら記述。/結果: 「できるだけ単純にし、目的を明確にすること」が抜け出す鍵と助言。案件の結末は書かれていない。段階を「まとまったチームでも戻る」例として使っており、原典の順序モデルとは使い方が違う点に注意。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- 個人の実践記録(組織公表ではない): Zenn の記事(2023年5月20日公開、筆者 hiromina 氏、東京の SaaS 企業勤務とあるが社名なし) https://zenn.dev/heromina/articles/29e9771698237f /スクラムマスターとして2022年6月〜2023年2月のチームの変化を4段階に当てはめて振り返り。混乱期に「スクラムに意味があるのか」という疑問が出て、目的のすり合わせと振り返りの作り直しで乗り越えたと報告。事後に当てはめた本人の解釈であり、モデルの検証ではない。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- 公的機関の紹介: 中小企業基盤整備機構の J-Net21(https://j-net21.smrj.go.jp/solution/handbook/org/teambuilding.html)が解説しているが、自組織での使用例ではない。しかも「4つの段階」と書きながら5段階を並べ、「Transforming」を併記するなど不正確(日付表示なし)。
- ダイヤモンド・オンライン(2021年10月29日、セルム高橋豊氏)はテレワークへの応用を論じた寄稿で、特定組織の使用公表ではないため採用しない。HR 系メディアにある「TonTon」「オアシスライフスタイルグループ」の事例は、メディア側の紹介のみで本人の公表を確認していない(未確認)。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は2件(ベジクル、Atlassian)。Zenn の個人の振り返りは組織の公表ではないため③に置いた。
うまくいかなかった例と批判
- 原典自身の限界表明: Tuckman は1965年本文で「文献は治療グループに偏り、一般化には注意が必要」「観察は質的で観察者の偏りを受ける」と書いている。1984年には、最初は編集者に「研究の質が不十分」として不採択にされた経緯を本人が明かしている。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf、https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf)
- Gersick (1988): 期限のある実際のプロジェクトチームでは、段階を順に踏まず、中間点で一気に転換したと報告(上記)。(出典: https://explore.psychsafety.com/n/gersick-1988/)
- Atlassian のブログ: 確立したチームでも、難しい案件で非生産的な混乱に陥った自社例を書いている(上記)。(出典: https://www.atlassian.com/blog/teamwork/navigate-tuckman-stages-of-team-development)
- 組織が「タックマンモデルの使用をやめた」と公言する例は見つからなかった。
原典を読む
- 原典: Bruce W. Tuckman, "Developmental sequence in small groups", *Psychological Bulletin*, 1965。Group Facilitation 誌(2001年)の再録版が無料 PDF で読める(https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf 、英語、16ページ、本人の前書き付き)。Discussion の節に本人の限界表明がある。
- 続編: Tuckman & Jensen, "Stages of small-group development revisited", *Group & Organization Studies*, 1977(本文未開封)。
- 反対側の代表: Connie Gersick, "Time and transition in work teams", *Academy of Management Journal*, 1988(英語)。
- Tuckman 本人の論文や Gersick 論文の邦訳書は今回確認できなかった(未確認)。
原典で確かめたこと
- 提唱者・年: Bruce W. Tuckman (1965) "Developmental sequence in small groups", *Psychological Bulletin* 63(6), 384-399。Group Facilitation 誌(No.3, 2001年春)の再録版 PDF(ncjtc-static.fvtc.edu)を開き、「Copyright 1965 by the APA… Psychological Bulletin, Volume 63, Number 6, Pages 384-99」の表記と本文を確認した。DOI 10.1037/h0022100 は検索結果経由(一次ページ未確認)。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- どうやって作られたか(本人の回想): Tuckman 自身の Citation Classic 解説(Current Contents 1984年、garfield.library.upenn.edu の PDF を開いて確認)によると、当時の勤務先は米海軍医学研究所(Naval Medical Research Institute)。上司の Irwin Altman が集めていた集団発達の論文 50本を渡され、それを整理して作った。50本の多くは治療グループや T グループの精神分析的な研究だった。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf)
- 原典の主張(自分の言葉で): 50本の文献を「治療グループ」「Tグループ(訓練グループ)」「自然集団・実験室集団」に分け、各研究が述べる段階を「人間関係(集団構造)」と「課題活動」の2つの面に分けて並べた。その結果、4段階に当てはまると提案した。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- 人間関係の面: 試し合い・依存 → 対立 → まとまり(凝集)→ 役割が機能する
- 課題の面: 方向づけ → 感情的な反応 → 意見の交換 → 解決策が出る
- これに forming / storming / norming / performing という覚えやすい名前を付けた。本人は「名前の言いやすさが人気の理由だろう」と書いている。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf)
- 本人が書いている限界(1965年本文の Discussion): ①文献は治療グループに偏っていて、自然集団・実験室集団が少ない。だから一般化は「主に治療グループの話」に限るべき。②多くは単一グループの観察で、質的な記述なので、観察者(セラピストやトレーナー)の偏りを受ける。③独立変数を操作していないので、何が段階を左右するかは分からない。(出典: https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf)
- 掲載までの経緯: 当時の編集者 Lloyd Humphreys は最初「レビュー対象の研究の質が低い」として不採択にした。Tuckman が「研究を正当化するのでなく推論を引き出すのが目的」と書き直して採択された(1984年の本人解説)。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf)
- 5段階目(Adjourning): Tuckman & Mary Ann C. Jensen (1977) "Stages of small-group development revisited", *Group & Organization Studies* 2(4), 419-427。本人解説によると、1965年以降の22本の研究を見直し、4段階はおおむね支持され、さらに終わりの段階が示唆されたので「adjourning」と名付けた。巻号頁は再録版と1984年解説の脚注で確認(論文本体は未開封、号数4は検索結果経由)。(出典: https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf、https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf、https://doi.org/10.1177/105960117700200404)
出典
- https://ncjtc-static.fvtc.edu/resources/RS02734012.pdf
- https://garfield.library.upenn.edu/classics1984/A1984TD25600001.pdf
- https://explore.psychsafety.com/n/gersick-1988/
- https://www.atlassian.com/blog/teamwork/navigate-tuckman-stages-of-team-development
- https://www.wantedly.com/companies/vegekul/post_articles/1024186
- https://j-net21.smrj.go.jp/solution/handbook/org/teambuilding.html
- https://zenn.dev/heromina/articles/29e9771698237f
- https://diamond.jp/articles/-/284528
- https://doi.org/10.1177/105960117700200404
- https://doi.org/10.1080/13678861003589099
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