プレモーテム(Pre-mortem)
まず知る
- 「失敗するかも」ではなく「もう失敗した。なぜ?」と問い、各自が静かに理由を書く(出典: Klein, HBR 2007)。(出典: https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)
- 狙いは、計画段階で言いにくい懸念に発言の許可を与えること。(出典: https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)
- 根拠は中〜弱。実務報告は多いが、比較実験やメタ分析は見つかっていない。「30%向上」は Klein の引用で、原論文では未確認。(出典: https://www.safaribooksonline.com/library/view/hbr-guide-to/9781422187319/14-chap5.xhtml)
- 出た懸念を担当・期限つきのアクション(多くても3つ程度)に落とさないと意味がない。小さい決定や即戻せる変更には不要(GitLab ハンドブック)。(出典: https://handbook.gitlab.com/handbook/engineering/data-engineering/pre-mortems/)
根拠の強さと限界
評価: 中〜弱(実務での支持は厚いが、実験的な裏付けは小さい)。
- 理論面: 失敗を前提にすると理由を挙げやすい、という考えは1989年研究に由来するとされる。ただし上記のとおり、原論文の要旨は「時間視点の効果は小さい」とも読める。引用の仕方に注意が必要。(出典: https://colab.ws/articles/10.1002%2Fbdm.3960020103)
- 直接の検証: 検索で確認できたのは、Veinott, Klein & Wiggins (2010, ISCRAM 会議論文) の実験(ブログ要約経由で178人、H1N1 対応計画の評価課題。計画への自信がプレモーテム群で大きく下がったとされる。論文本体は未開封、数値は未確認)と、フィールド/実験室での評価を扱った学位論文(core.ac.uk の抄録経由)。後者は結果が混在していて、ある実験では理由の数に有意差がなく、別の実験ではプレモーテムが優位。(出典: https://core.ac.uk/works/49608374。Veinott ほか 2010 の出典URL: 未確認)
- メタ分析・大規模再現: 見つからなかった。既存解説の「事例報告は多いが大規模な比較実験は少ない」は妥当。
- 限界: 想定できる範囲の失敗しか出ない。出た懸念が計画に反映されなければ意味がない。GitLab のハンドブックは「プレモーテムが事故を防いだことは証明できない」と明記している(下記)。(出典: https://handbook.gitlab.com/handbook/engineering/data-engineering/pre-mortems/)
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- PayPal(エンジニアリングチーム)/2021年7月(Seema Thapar 氏の自社ブログ)/原文 https://medium.com/paypal-tech/pre-mortem-technically-working-backwards-1724eafbba02 /ソフト設計の通常プロセスにプレモーテムを組み込み(設計を1ページにまとめ、失敗理由を出し合い、設計に反映)。/結果: 早期の問題発見、死角の顕在化、若手の育成、参加意識の向上を報告。数値は無い。原文は Medium が403で開けなかったため、内容は InfoQ(https://www.infoq.com/news/2021/07/paypal-premortem-analysis)の要約経由で、要確認。
- 日本の事例: 企業が自社実施を公言した公式ブログ・資料を検索で見つけられなかった(未確認)。見つかったのは個人 note(2025年12月、自社実施の記述なし)と、ツール会社の解説のみ。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- (採用方針・使用実績の公表ではない) GitLab(データエンジニアリング/Monetization チーム)/2026年(ページ更新表示 2026-09-16)/公式ハンドブック https://handbook.gitlab.com/handbook/engineering/data-engineering/pre-mortems/ /ローンチ前のリスク抽出に45分のプレモーテム(事前に24時間の非同期記述、30分の読み上げ、上位3アクションまで)。使うのは任意で、フラグ付きで即停止できる変更や定常作業では不要としている。/結果: 効果の数値は無い。「事故を防いだ証明はできない」とし、四半期ごとに「事故の原因がリスク一覧に載っていたか」だけ見るとしている。
- Atlassian/ページ年は未確認/公式 Team Playbook https://www.atlassian.com/team-playbook/plays/pre-mortem /「プレモーテム」の進め方を無料公開(準備、各自が静かに記入、投票、上位3つを議論、担当と期限を決める。合計約60〜65分)。/結果: 成果の記載なし。ページは社内利用を明言しておらず、Klein への帰属表示もない。公開手順であって、社内での使用実績ではない。
- Kahneman がプレモーテムを高く評価しているとの記述(fs.blog)は、本人の発言の出所が示されておらず採用しない。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は PayPal の1件(内容は InfoQ の要約経由で要確認)。GitLab のハンドブックはチームの進め方を方針として書いたもの、Atlassian は公開手順で、どちらも④に置いた。
うまくいかなかった例と批判
- GitLab ハンドブックは「効果は証明できない」「繰り返し当たらないなら手法を変えるか、やめる」と自ら書いている(上記URL)。使わない場面(フラグ付き変更、定常作業、1人の既知の懸念を公式化するだけの場合)も明記。(出典: https://handbook.gitlab.com/handbook/engineering/data-engineering/pre-mortems/)
- 「やめた」と公言する例は見つからなかった。
原典を読む
- 原典: Gary Klein, "Performing a Project Premortem", HBR, 2007年9月(https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)。短い記事で、英語。
- 邦訳書: ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(上・下)』村井章子訳、早川書房、2012年(ハヤカワ文庫NF 上下は2014年)。書誌は確認済み(紀伊國屋書店ページ)。プレモーテムの記述箇所は本文未確認。
- Klein 自身の邦訳書は今回確認できなかった。
原典で確かめたこと
- 提唱者・年: Gary Klein、2007年9月。HBR の記事ページ(hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)を開いて、著者・掲載月・題名「Performing a Project Premortem」・再録番号 F0709A を確認した。書誌の巻号頁(85(9), 18-19)は検索結果の引用リスト経由で、一次ページでは未確認。(出典: https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)
- 原典の主張(自分の言葉で): プロジェクトは高い確率で失敗するが、計画段階では懸念を持つ人ほど口に出しにくい。そこで「このプロジェクトはすでに失敗した」と仮定し、その理由を各自が挙げる。失敗を前提にすることで、事情に詳しい人が弱点を言う許可が得られ、成功確率を上げられる、という主張。(出典: https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)
- 土台の研究: Mitchell, Russo & Pennington (1989) "Back to the future: Temporal perspective in the explanation of events", *Journal of Behavioral Decision Making* 2(1), 25-38, DOI 10.1002/bdm.3960020103。書誌と要旨は colab.ws のページで確認(Wiley 本体は403で未開封、全文も未確認)。(出典: https://colab.ws/articles/10.1002%2Fbdm.3960020103)
- 要旨で確認できた内容: 「prospective hindsight(未来の出来事を既に起きたものとして説明する)」を扱う2実験。実験1では時間視点(未来か過去か)の効果は小さく、結果の確実性(起きると確定しているか)のほうが説明の性質を大きく変えた。確実な出来事の説明は長く、エピソード的な理由の割合が高く、過去形で語られた。(出典: https://colab.ws/articles/10.1002%2Fbdm.3960020103)
- 30%の数字: 検索で得た HBR 本文の引用では、Klein は「この1989年研究で prospective hindsight により将来の結果の理由を正しく特定する力が30%上がった」と書いている(HBR Guide 転載ページ経由。本文ページそのものは未開封)。1989年論文の要旨にはこの数字が出てこないので、論文本体で確認できるまでは「Klein が引用している数字」としか書けない。(出典: https://www.safaribooksonline.com/library/view/hbr-guide-to/9781422187319/14-chap5.xhtml, https://colab.ws/articles/10.1002%2Fbdm.3960020103)
出典
- https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem
- https://colab.ws/articles/10.1002%2Fbdm.3960020103
- https://www.safaribooksonline.com/library/view/hbr-guide-to/9781422187319/14-chap5.xhtml
- https://core.ac.uk/works/49608374
- https://handbook.gitlab.com/handbook/engineering/data-engineering/pre-mortems/
- https://www.atlassian.com/team-playbook/plays/pre-mortem
- https://www.infoq.com/news/2021/07/paypal-premortem-analysis
- https://medium.com/paypal-tech/pre-mortem-technically-working-backwards-1724eafbba02
- https://fs.blog/kahneman-better-decisions/
- https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784150504106
記入テンプレを準備しています
このフレームワークを、仕事の場面でそのまま使えるシートにまとめています。欲しいものを1つ選んでください。
ありがとうございます。準備ができたら、このサイトでお知らせします。
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