PDCA
まず知る
- 「Deming が創った PDCA」は誤解。Deming 本人は PDCA を受け入れず、PDSA(Study)を推した。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- 1950年の Deming の円は設計・生産・販売・再設計。PDCA は日本の経営者による作り替えで、考案者は不明。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- 学習サイクルとしては理屈が強いが、PDCA で成果が上がるという比較検証は確認できず、根拠は「中〜弱」。
- 実務では回らない理由が公的文書にも出る(担当者の異動、課題と目標のずれ)。Check を「検証」にしないと形骸化する。(出典: https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000043204.pdf)
- 新規・不確実な課題には、予測を立てて小さく試す PDSA 的な使い方が向く。
使い方(手順と記入例)
手順
- Plan(計画):変えたいことを1つ選び、「何を・いつまでに・どれだけ」と、「こうすればこうなるはず」という予想を1行ずつ書く。
- Do(実行):計画をまず小さな範囲で試し、やったことと結果の数字をその場でメモする。
- Check(確かめる):予想と結果を比べ、ずれた理由を事実で1〜2行書く(「頑張った」「忙しかった」は理由にしない)。
- Act(直す):うまくいったやり方は続け、外れた所は直して、次の計画で「何を変えるか」を1つ書く。
記入例
架空の場面:入社1年目のBさんが、お客さまからの問い合わせメールへの返信が遅いと注意された。
- ①Plan:目標「2週間で、返信までの時間を平均2日から平均1日以内にする」。予想「よく来る質問の返信テンプレート(ひな形)を3つ作れば、書く時間が減って早くなるはず」。
- ②Do:テンプレートを作って2週間使い、毎日「メールが来た時刻」と「返信した時刻」を表に記録した。
- ③Check:結果は平均1.5日。書く時間は減ったが、遅れの多くは「先輩の確認待ち」で半日以上止まっていたことだった。予想は半分だけ当たっていた。
- ④Act:テンプレートは続ける。次の2週間は「確認が要るメールは、朝10時にまとめて先輩に見てもらう」を試す。
できたかの目安
- 予想と結果の差と、そのずれた理由が事実で書け、次の計画が1つでも変わっていれば使えている。計画と実行だけで、次の計画が前回と同じなら未完成。
なぜ効くか(短く)
PDCA の中身は「予想を立てて試し、結果で確かめて直す」という、科学の実験と同じ考え方で、理屈はしっかりしています。ただ、PDCA を使うと成果が上がることを他の方法と比べて確かめた強い研究は見つかっておらず、根拠は「中〜弱」です。医療の改善報告を調べたレビュー(たくさんの研究をまとめて調べたもの)では、くり返し試すことやデータで確かめることなど、肝心の部分が行われたか分からない報告が多いとされます(出典: https://psnet.ahrq.gov/issue/systematic-review-application-plan-do-study-act-method-improve-quality-healthcare)。形だけ回さず、Check で本当に確かめることが要です。
根拠の強さと限界
中〜弱。
- 土台の「仮説→実験→検証」は科学的方法そのもので理屈は強い。一方、「PDCAを使えば成果が上がる」を比較検証した強い研究は今回確認できなかった。
- 確認できた研究: Taylor ら (2014) BMJ Quality & Safety 23(4):290-8(doi:10.1136/bmjqs-2013-001862)は医療での PDSA 適用論文を系統的にレビューし、多くの研究が反復サイクル・変更の検証・データ活用といった核心要素を報告していないと結論(PSNet 要約で確認。本文・件数は未確認)。つまり「PDSAと称していても中身が確認できない」ことが多い。(出典: https://psnet.ahrq.gov/issue/systematic-review-application-plan-do-study-act-method-improve-quality-healthcare, https://doi.org/10.1136/bmjqs-2013-001862)
- 起源面では「Deming が創った PDCA」は誤り(下記)。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- 総務省 統計品質管理推進室「PDCAサイクル確立に向けた点検・評価の取組状況」(令和5年9月): 公的統計の調査ごとに事後点検・評価をルール化(令和2年度〜、ガイドライン令和2年10月施行)。令和4年度は111調査で実施、5年度は87調査の実施予定。改善例としてオンライン調査の導入、紙公表の廃止、実査の民間委託など。出典: https://www.soumu.go.jp/main_content/000900567.pdf
- 日本製鉄(公式サイト 環境マネジメント): 社内外の環境監査を組み合わせてPDCAを回し環境リスクを低減すると記載。各製鉄所が年1回の内部監査・マネジメントレビュー、環境防災委員会を半年ごとに開催、国内関連42社の会議(2025年4月時点)。掲載日は不明。出典: https://www.nipponsteel.com/sustainability/env/management/management.html
- Institute for Healthcare Improvement(IHI)【手法を広める側の自己申告で、名指ししているのは PDSA(PDCA の近縁形)。効果の証拠にはしない】: 「Model for Improvement」は Associates in Process Improvement が開発したと明記し、PDSA を「小さく試す」手法として自組織の改善にも用いると説明(Moen の所属組織と一致)。出典: https://www.ihi.org/resources/how-to-improve
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- (採用方針・使用実績の公表ではない) 厚生労働省「PDCAサイクルを通じた医療計画の実効性の向上のための研究会 報告書」(平成26年3月20日): 第6次医療計画(平成25年度〜)で、都道府県に疾病・事業ごとのPDCAを機能させるよう求め、現状把握→目標→実行→指標での進捗評価→見直しの手順と支援策を提示。成果の数値は報告書にない。出典: https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000043204.pdf
- (提案段階・使用実績の公表ではない) 経済財政諮問会議・有識者議員提出資料「実効性あるPDCAサイクルの確立に向けて」(平成25年5月20日): 財政の質の改善のため、重点分野について府省から報告を受けPDCAを回す仕組みや第三者チェックを提案(提案段階の文書で成果は未記載)。出典: https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0520/shiryo_05.pdf
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は3件(総務省の統計点検・評価、日本製鉄の環境マネジメント、IHI〈普及団体の自己申告・PDSA〉)。厚生労働省の医療計画の報告書は都道府県に求める方針、経済財政諮問会議の資料は提案段階で、どちらも④に置いた。
うまくいかなかった例と批判
- Deming 本人: 1980年GAO座談会でQCサークルのPDCAとデミング・サイクルの関係を問われ「両者は無関係」と答えた、1991年の書簡でPDCAの出所は知らないと述べた(いずれも Moen 論文の引用。GAO原本・書簡は未開封)。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- 厚生労働省 研究会報告書(上記1): 自治体側の課題として、都道府県職員は約2年で異動することが多くノウハウが蓄積しにくいと指摘。また設定した目標が抽出した課題に合致しなければ、個別目標が達成されても効果がないとも述べる。PDCAが回らない現場の事情の公的記述。(出典: https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000043204.pdf)
- Taylor ら (2014): PDSAの適用報告が方法論的に不十分(上記)。(出典: https://psnet.ahrq.gov/issue/systematic-review-application-plan-do-study-act-method-improve-quality-healthcare, https://doi.org/10.1136/bmjqs-2013-001862)
原典を読む
- W. Edwards Deming, *The New Economics*, MIT Press, 1993(PDSA の p.135。Moen 論文の参考文献で確認、書籍未開封)。邦訳の有無は未確認。
- 今井正明『カイゼン』(原著 *Kaizen: The Key to Japan's Competitive Success*, 1986。英語版ISBNの記載は書誌により異なり未確定)。日本語版の出版社・ISBNは未確認。
- 入門は IHI のページ(無料): https://www.ihi.org/resources/how-to-improve
- 日本語の推薦書籍は、実在を確認できたものがないため今回は挙げない。
原典で確かめたこと
- Shewhart(1939): 『Statistical Method from the Viewpoint of Quality Control』(農務省刊、Dover 1986版 p.45)。仕様→生産→検査を直線でなく円にし、仮説→実験→仮説の検定という科学的方法に対応させた。この引用は Moen の論文経由で確認(Shewhart 原本は未開封)。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- Deming(1950): JUSE 主催の8日間セミナーで Shewhart の考えを円に改め、設計→生産→販売→調査・再設計の4段階とした。日本側はこれを「デミング・ホイール」と呼んだ(Moen 論文)。この時点の語は PDCA ではない。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- 日本での PDCA 成立: 今井正明『Kaizen』(1986) を引いて、日本の経営者が1950年JUSEセミナーのデミング・ホイールを Plan-Do-Check-Act に作り替えたと Moen は述べる。誰が訳したかは今井も示さず、「誰も自分の作とは主張していない」(Moen)。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- Deming 本人の語: 1986年『Out of the Crisis』p.88 で Shewhart サイクルを再提示、1993年『The New Economics』p.135 で PDSA(Shewhart Cycle for Learning and Improvement)。1990年11月17日付 Moen 宛書簡に「PDCAではなくPDSAと呼べ」旨(Moen の引用。書簡原本は未確認)。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
- 論文: Moen R., “Foundation and History of the PDSA Cycle”(Associates in Process Improvement 発行、公開PDFを開いて確認。末尾に2009年9月17日 ANQ東京大会での Moen & Norman 発表への言及)。Moen & Norman, “Evolution of the PDCA Cycle” 本体(westga.edu 掲載とWikipediaは記載)は未開封。DOIなし。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf, https://en.wikipedia.org/wiki/PDCA)
- 主張: 計画を仮説、実行を実験、確認(Study)を予測と結果の照合と捉える学習サイクル。PDCA(日本型)は標準化・遵守寄り、PDSA は検証・学習寄りという棲み分けを Moen は述べる。(出典: https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf)
出典
- https://businesswales.gov.wales/sites/main/files/documents/Foundation%20and%20the%20history%20of%20the%20PDSA%20cycle.pdf
- https://en.wikipedia.org/wiki/PDCA
- https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000043204.pdf
- https://www.soumu.go.jp/main_content/000900567.pdf
- https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0520/shiryo_05.pdf
- https://www.nipponsteel.com/sustainability/env/management/management.html
- https://www.ihi.org/resources/how-to-improve
- https://psnet.ahrq.gov/issue/systematic-review-application-plan-do-study-act-method-improve-quality-healthcare
- https://doi.org/10.1136/bmjqs-2013-001862
記入テンプレを準備しています
このフレームワークを、仕事の場面でそのまま使えるシートにまとめています。欲しいものを1つ選んでください。
ありがとうございます。準備ができたら、このサイトでお知らせします。
試作中のため、選んだ結果はこの端末の中だけに記録されます。外部には送られません。