パレートの法則(80:20、Pareto Principle)
まず知る
- 「結果の大部分は少数の原因から生まれる」ので、まず数えて大きい順に並べ、上位に集中する考え方。
- 名前の由来はパレート(1897年、各国の所得統計の分析)だが、パレートは「80:20」とは言っていない。品質管理の専門家ジュランが1940年代末に「パレートの法則」と名付け、のちに本人が「名前を誤った」と認めている。(出典: https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt, https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 「イタリアの土地の8割を2割の人が持っていた」「庭のエンドウ豆」の話は、一次資料で確認できない逸話。(出典: https://www.mathiaselsner.de/jupyter/Pareto_6.html)
- 根拠は中くらい。少数への偏りは多くの現場で実測されている(例: Microsoft は2002年、バグの20%がエラーの80%を起こすと発表)が、比率は毎回違う。80:20 は目安。(出典: https://route-fifty.com/digital-government/2002/10/microsofts-ballmer-says-1-percent-of-software-bugs-cause-50-percent-of-errors/285949)
- 指標(件数か金額か)を変えると上位が入れ替わる。件数が少なくても安全・法令など外せないものは別枠で守る。ジュランも後に「取るに足りない多数」を「役に立つ多数」と言い換えた。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
根拠の強さと限界
評価: 中(「少数の項目に偏る」こと自体は多くの分野で実測されている。ただし「80:20」という比率は目安にすぎず、根拠は弱い)。
- 偏りの存在: パレートの所得統計、ジュランの不良の観察、Microsoft のエラー報告(下記)など、実データで少数への強い偏りが繰り返し報告されている。(出典: https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt, https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf, https://route-fifty.com/digital-government/2002/10/microsofts-ballmer-says-1-percent-of-software-bugs-cause-50-percent-of-errors/285949)
- 比率は一定でない: パレート自身の α でも国・時代でばらつく。上の計算のとおり、パレートの典型値なら上位20%の取り分は8割に届かない。(出典: https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt)
- べき乗則の主張そのものへの批判: Clauset, Shalizi & Newman "Power-law distributions in empirical data", *SIAM Review* 51, 661–703 (2009)(arXiv 0706.1062 の要旨を確認)。べき乗分布とされてきた24の実データを統計的に検定し直し、一部はべき乗分布と矛盾しないが、一部はべき乗分布ではないと棄却された。「偏っている」ことと「べき乗則・80:20に従う」ことは別。(出典: https://arxiv.org/abs/0706.1062)
- 使い方としての検証: 「パレート分析をすると成果が上がる」という比較実験は検索では見つからなかった(未確認)。品質管理の現場の道具として定着している、という実務の支持が中心。
- 限界: 過去の偏りが将来も続くとは限らない。指標(件数か金額か)を変えると上位が入れ替わる。件数は少なくても外せない項目(安全・法令)を「下位」として切り捨てる危険がある。ジュラン自身が「trivial」を「useful」に言い換えたのもこの点への配慮とみられる(言い換えの理由は PDF に書かれておらず、推測)。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- Microsoft(Steve Ballmer 社長〈当時〉)/2002年10月(社内外向けメール。報道は GCN の Susan M. Menke 記者、2002年10月3日)/https://route-fifty.com/digital-government/2002/10/microsofts-ballmer-says-1-percent-of-software-bugs-cause-50-percent-of-errors/285949 /Windows や Office から送られてくるエラー報告(minidump)を分析し、「バグの20%がエラーの80%を引き起こし、1%のバグがエラーの半分を引き起こす」と述べた。/結果: 約450社がエラー報告データベースを利用し、他社製ドライバやアプリの不具合も見つかった、と記事にある。Windows XP SP1 でエラーの29%に対処、Office XP SP2 で半分以上を解消、という数字は eWeek の全文掲載経由の検索要約のみ(eWeek は403で未開封、要確認)。「パレート」という言葉を本人が使ったかは記事で未確認で、偏りを実測して重点化した例として扱う。
- 日本企業が自社のパレート図活用と結果を公表した一次資料(QCサークル発表資料など)は、今回の検索では見つけられなかった(未確認)。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- 株式会社体育社(広島市、卸売・小売業、従業員55名)【県の事例集での紹介で会社自身の公表ではなく、「パレート」の名指しもないため③】/発行年は資料上で未確認/広島県『働き方改革取組マニュアル・事例集「取組アイデア編」』p.14 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/593148.pdf /営業担当者が全取引先をほぼ同じ頻度で訪問していたのを、取引総額や実績で S・A・B・C にランク分けする ABC分析で訪問計画を見直した。/結果: 移動時間を含む業務時間が約20%減、残業が月16時間減、重要顧客との商談時間が増えた、と県資料に記載。注意: 資料は「パレート」という言葉を使っておらず、ABC分析(上位に集中する考え方でパレート分析と同系統の手法)の事例。また会社自身の発表ではなく、県が事例集として公表したもの。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- QC七つ道具の解説は多数あるが、解説であって使用実績ではない。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は Microsoft の1件(「パレート」の名指しは未確認で、偏りを実測して重点化した例)。体育社は県の事例集による ABC分析の紹介で、③に置いた。
うまくいかなかった例と批判
- 命名者自身の訂正: ジュランは1974年の論文で「パレートの名を付けたのは誤り」「同時代の著者がパレートに、彼のしていないことまで付け加えている」と書いた(上記 PDF)。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 統計学からの批判: Clauset ほか(2009)は、べき乗分布とされてきた実データの一部が検定で棄却されることを示した(上記 arXiv)。(出典: https://arxiv.org/abs/0706.1062)
- 「パレート分析をやめた」「重点化で失敗した」と組織が公言した例は見つからなかった。
原典を読む
- 原典(命名の経緯): J. M. Juran「The Non-Pareto Principle; Mea Culpa」(1974年、英語、4ページ、Juran Institute のサイトで無料)。命名の経緯と本人の訂正が一番よく分かる。
- 原典(所得分布): V. Pareto『Cours d'économie politique』第2巻(1897年、フランス語、archive.org で無料)。第1章 §957–962。読むのは図表だけでも十分。
- 一般向け邦訳書: リチャード・コッチ『人生を変える80対20の法則』仁平和夫訳、TBSブリタニカ、1998年(現行は CCCメディアハウスの新版)。書誌は一橋大学 OPAC 等の検索結果経由でページ未開封。この本は原典ではなく、80:20 を広く当てはめる立場の普及書なので、上の原典と合わせて読む。
原典で確かめたこと
- パレート本人の仕事: Vilfredo Pareto『Cours d'économie politique』第2巻(1897年)第1章「La courbe des revenus(所得の曲線)」§957–962。archive.org の原書スキャン(fp-0148-2)の OCR テキストを開いて確認した。内容は所得税の統計から所得の分布を調べたもので、ある所得 x 以上の人数 N が log N = log A − α log x の直線に乗ることを示し、国・時代ごとの傾き α を一覧にしている(イングランド 1.50・1.35、プロイセン 1852年 1.89・1876年 1.72、ザクセン、イタリアの諸都市 1.45、ペルージャ、パリの家賃(数値はOCRが崩れて読めず)、アウクスブルク 1471–1526年 1.13〜1.96、18世紀末のペルー 1.79 など。OCR の読み取りなので個々の数値には誤読の可能性あり)。§960 で「この結果は偶然とは考えられない」としつつ、「純粋に経験的な法則なので慎重であるべき」とも書いている。(出典: https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt)
- 80:20 の数字: 第1巻・第2巻の OCR テキストを検索した範囲では、「上位20%が80%を持つ」という記述は見つからなかった(OCR 検索の範囲での確認。全文精読ではない)。パレートの示したのは比率ではなく、分布の形(べき乗の傾き)。(出典: https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt)
- 計算上の補足: 仮に分布全体がパレート分布に従うとすると、上位20%が全体の80%を持つのは α≈1.16 のとき。パレートの表で多い α≈1.5 なら上位20%の取り分は約58%になる(自分の計算。パレートの α は高所得側の裾の傾きなので、あくまで目安)。
- 「イタリアの土地の80%を20%の人が所有」「庭のエンドウ豆」の逸話: 一次資料で確認できなかった(未確認)。Mathias Elsner のページは、エンドウ豆の話を「裏付けられない作り話」、イタリアの土地の話を「パレートは複数国のデータから分布を導いており、イタリアに重点はない」としている。上記の所得曲線の章にも土地所有の80:20は出てこない。(出典: https://www.mathiaselsner.de/jupyter/Pareto_6.html)
- ジュランの命名: Joseph M. Juran「The Non-Pareto Principle; Mea Culpa」(1974年。Juran Institute が公開している PDF を開いて確認。掲載誌 Quality Progress 1975年5月号という書誌は検索結果経由で未確認)。ジュラン自身の説明は以下のとおり。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 1920年代半ば、若手技術者として「不良の種類を頻度順に並べると、少数の種類が不良の大半を占める」ことに気づいた(自分以前にも多くの人が気づいていた、と書いている)。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 1930年代末、GM の Merle Hale から、GM の役員報酬がパレートの数式モデルによく合うことを見せられ、パレートの名を知った。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 1940年代末、『Quality Control Handbook』初版(McGraw-Hill、1951年、pp.37–41)の執筆中に、この普遍的な現象に短い名前が必要になり「Pareto principle」と名付けた。図の説明文が「パレートが普遍原理として一般化した」と読めるのは誤りだったと認めている。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 「vital few and trivial many(重要な少数と取るに足りない多数)」はジュランの造語。初出は1954年11月の Management Review の論文「Universals in Management Planning and Controlling」とみられる(本人の脚注)。のちに「trivial many」を「useful many(役に立つ多数)」に言い換えた(PDF のまとめ欄)。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 累積曲線は本来 Lorenz(1905年)の名で呼ぶべきだった、とも書いている。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 結論として「普遍原理としてのパレートの法則はパレートの考えではない。最初に書いたのは自分」「名前を誤ったと認めても、呼び名は変わらなかった」と述べている。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
- 注意: 同じ PDF の Juran Institute による見出し欄には「ジュランが80/20の概念を明確にした」とあるが、ジュランの本文自体には80/20という数字は出てこない。(出典: https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf)
出典
- https://www.juran.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Non-Pareto-Principle-1974.pdf
- https://archive.org/metadata/fp-0148-2
- https://archive.org/download/fp-0148-2/FP0148_2_djvu.txt
- https://www.mathiaselsner.de/jupyter/Pareto_6.html
- https://arxiv.org/abs/0706.1062
- https://route-fifty.com/digital-government/2002/10/microsofts-ballmer-says-1-percent-of-software-bugs-cause-50-percent-of-errors/285949
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/593148.pdf
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