ジョハリの窓(Johari window)
まず知る
- ジョハリの窓は、Joseph Luft と Harrington Ingham が1955年に発表したとされる図。UCLA 系の集団研修の場で作られたと Luft は述べている(1969年の著書の孫引き。原会議録は未確認)。(出典: https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf )
- 「自分が知っている/知らない」×「他人が知っている/知らない」で4つの窓に分け、自己開示とフィードバックで「開放の窓」を広げる、という考え方。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window )
- 根拠は弱。説明用の図式で、効果を確かめた大きな研究は見つかっていない。
- よく見る「形容詞を選び合うワーク」は後から作られた方法で、原典の手順かどうかは確認できていない。
- 「既知の未知・未知の未知」(ラムズフェルド)の元ネタと言われることがあるが、本人は別の人物から聞いたと書いている。由来と言うのは誤り。(出典: https://papers.rumsfeld.com/about/page/authors-note )
- 使うなら、開示は本人の任意にし、感想ではなく具体的な場面で伝え合う。
根拠の強さと限界
評価: 弱(気づきを促す図式であり、効果や測定の妥当性を示す研究はほとんど見つからない)。
- 性格: 実証研究から導いた理論ではなく、研修の場で説明用に描かれた図式(本人の証言どおり)。(出典: https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf )
- 測定研究: Shapiro, Heil & Hager (1983) "Validation of the Johari window test as a measure of self-disclosure", *Journal of Social Psychology* 120(2), 289-290 という2ページの短報がある。書誌は検索結果経由で、所蔵リポジトリは403で開けず、結果は未確認。(出典: https://doi.org/10.1080/00224545.1983.9713227 )
- 効果研究: 検索で見つかったのは、インドネシアの中学生5人の前後比較(対照群なし)や、医学生14人の質的研究(査読前)など、ごく小規模なものだけ(いずれも検索結果の要約経由で未確認)。メタ分析や大規模な比較実験は見つからなかった。(出典URL: 未確認)
- 限界: 自己開示を強制すると逆効果になりうる、という注意は多くの解説にあるが、それを検証した研究は今回見つけていない(未確認)。既存解説の「実証的な心理測定ではなく概念モデル」という位置づけは妥当。
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- 株式会社Newbees(日本)/2025年11月実施、2026年1月23日公開/公式 note https://note.com/newbees/n/n6de245d040ec /年2回(5月・11月)全国のリモートメンバーが東京に集まる出張イベントで、対面のジョハリの窓ワークショップを実施。目的共有→概要説明→個人ワーク→他者フィードバック→(昼休憩)→窓の作成→グループ討議→全体共有の8段階。外部の内容を自社向けに調整したとある。/結果: 参加者アンケート31件で「良い」97%・「普通」3%、「盲点の窓や秘密の窓の発見があった」90%。満足度と自己申告の気づきであり、行動や成果の変化は測っていない。改善点として「普段関わりの少ない人同士だと理解度に差がある」「途中でチームを入れ替える」を挙げている。
- 海外組織の公表事例: 企業・行政機関・大学が自組織での実施を公言した公式ページは、今回の検索では見つからなかった(未確認)。見つかったのはツール会社や研修会社の解説・テンプレートのみ。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- 研修会社やHRメディア(Schoo、カオナビ等)の解説は、自組織での使用の公表ではないため採用しない。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は1件(Newbees。満足度と自己申告の気づきのみ)。海外の組織の公表例は見つからなかった。
うまくいかなかった例と批判
- Bergquist(2014年ごろのエッセイ)は、ジョハリの窓が専門家から「古い」「単純すぎる」と退けられがちだと書き、同時に「妥当性に懐疑的な人でさえ使う」と述べている(上記 PDF)。批判の具体的な研究は示されていない。(出典: https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf )
- Newbees の記事は「業務で関わりの少ない者同士では理解度に差があり工夫が必要」と、自社のやり方の弱点を書いている(上記)。(出典: https://note.com/newbees/n/n6de245d040ec )
- 組織が「やめた」「逆効果だった」と公言する例は見つからなかった。
原典を読む
- 原典: Luft & Ingham (1955) の会議録は入手方法を確認できなかった(未確認)。
- Luft 本人の本: *Of Human Interaction*(1969年)、*Group Processes: An Introduction to Group Dynamics*(第3版 1984年、Mayfield、CiNii で書誌確認)。いずれも英語で本文は未確認。Luft の邦訳書は CiNii の検索では見つからなかった。
- 日本語で読むなら: 津村俊充・山口真人編『人間関係トレーニング——私を育てる教育への人間学的アプローチ』ナカニシヤ出版、1992年(南山短期大学人間関係科監修、ISBN 4888481822。CiNii で書誌確認)。体験学習の入門書だが、ジョハリの窓の記述箇所は本文未確認。第2版の有無も未確認。
原典で確かめたこと
- 提唱者・年: Joseph Luft(1916-2014)と Harrington Ingham(1916-1995)、1955年に発表したとされる(原会議録は未確認)。生没年は Wikipedia で確認。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window )
- 初出: Luft & Ingham (1955) "The Johari window, a graphic model of interpersonal awareness", *Proceedings of the Western Training Laboratory in Group Development*, UCLA Extension Office。初出の会議録そのものはネット上で見つからず未確認。題名は Wikipedia の文献欄による。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window )
- 本人の証言: Luft の著書 *Of Human Interaction*(1969年)の冒頭として、William Bergquist のエッセイ(library.psychology.edu の PDF を開いて確認)が次の趣旨を引用している。「Ingham と私は1955年の夏のラボラトリー(体験型の集団研修)でこのモデルを作り、その年の Western Training Laboratory in Group Development の会議録として UCLA Extension Office から出た。Johari は Joe と Harry の組み合わせで、マレー半島南端の地名(ジョホール)ではない」。1969年の本自体は未開封で、孫引き。なおこのエッセイは Ingham を「Ingram」、書名を「On Human Interaction」と誤記しているので、細部は注意して扱う。(出典: https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf )
- 由来の逸話(二次情報): Bergquist によると、UCLA 主催の研修会(カリフォルニア州オーハイ)で、スタッフだった2人が翌朝の全体会のために急いで図を描いて発表した。1年後に別の研修会で参加者から「Joe-Harry の窓」の話をしてほしいと頼まれ、他人が勝手に使い広めていたことを知った、という。裏付けは無い。(出典: https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf )
- その後の Luft の文献: Luft (1961) *Human Relations Training News* 5(1)、Luft (1982) "The Johari window: A graphic model of awareness in interpersonal relations", *NTL Reading Book for Human Relations Training*(Wikipedia の文献欄で確認、本文は未開封)。教科書 *Group Processes: An Introduction to Group Dynamics*(第3版 1984年、Mayfield)は CiNii の書誌で確認。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window / https://ci.nii.ac.jp/books/search?q=Luft%2C+Joseph )
- 原典の主張(自分の言葉で): 人間関係での気づきを「自分が知っている/知らない」×「他人が知っている/知らない」の4つの窓で表す。開放(両方が知る)、盲点(他人だけが知る)、秘密(自分だけが知る)、未知(両方とも知らない)。自己開示とフィードバックで開放の窓が広がる、という図式(Wikipedia の定義文で確認。原典の文言は未確認)。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window )
- 窓の別名: Arena(開放)、Blind spot(盲点)、Façade(秘密)という呼び名も流通している(Wikipedia)。どの文献で付いた名前かは未確認。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window )
- 形容詞を選ぶ定番のワーク(55〜56個の形容詞から自分と他人が選ぶ方式): 誰がいつ作ったかは確認できなかった(未確認)。1955年の原典に含まれるかも未確認。
出典
- https://library.psychology.edu/wp-files/uploads/2014/11/essay-one.112614.pdf
- https://en.wikipedia.org/wiki/Johari_window
- https://papers.rumsfeld.com/about/page/authors-note
- https://note.com/newbees/n/n6de245d040ec
- https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN08177508
- https://ci.nii.ac.jp/books/search?q=Luft%2C+Joseph
- https://doi.org/10.1080/00224545.1983.9713227
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