フレームワーク大全原典と根拠を確かめた解説

根拠 弱〜中・議論あり確認日 2026-10-18

成長マインドセット(Growth Mindset)

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根拠の強さと限界

評価: 弱〜中・議論あり(「考え方」と成績の関係も、短い介入の効果も、平均するとごく小さい。条件がそろったときに小さな効果が出るという大規模実験はあるが、その評価をめぐって研究者の間で論争が続いている)。

効果量の目安: d(標準化平均差)は「平均点の差が、ばらつき(標準偏差)の何倍か」。d=0.1 は「ごく小さい差」。教育研究では 0.1 でも意味があるという立場(Kraft 2020 の引用、Yeager & Dweck 2020 経由)と、小さすぎるという立場がある。(出典: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8299535/)

批判側の主な研究

  • Sisk, Burgoyne, Sun, Butler & Macnamara (2018) *Psychological Science* 29(4), 549-571。2つのメタ分析(論文 PDF を開いて数値を確認)。(出典: https://englelab.gatech.edu/articles/2018/Sisk,%20Burgoyne%20et%20al.%20(2018)%20-%20Mindset%20and%20Academic%20Achievement.pdf)
  • ①「考え方」と成績の相関: 273の効果量、365,915人。平均 r = .10(95%信頼区間 .08〜.13)。273のうち157(58%)はゼロと区別できなかった。子ども r=.19、中高生 r=.15、大人 r=.02(有意でない)。
  • ②介入の効果: 43の効果量、57,155人。平均 d = 0.08(95%CI 0.02〜0.14)。中高生だけ・大人だけでは有意でなかった。ただし低所得家庭の生徒(7つの効果量)では d = 0.34(95%CI 0.07〜0.62)、中〜高所得では d = 0.03。学業リスクの高い生徒は d = 0.17 だが有意でない。
  • 結論は「全体として効果は弱い。ただし低所得や学業リスクのある生徒には効く可能性がある」。
  • Macnamara & Burgoyne (2023) *Psychological Bulletin*, DOI 10.1037/bul0000352。63研究・97,672人のメタ分析(Europe PMC の要旨で確認)。全体 d = 0.05(95%CI 0.02〜0.09)で、出版バイアス(効果が出た研究ほど発表されやすい偏り)を補正すると有意でなくなった。介入で実際に考え方が変わったと示せた13研究(18,355人)では d = 0.04(有意でない)、質が最も高い6研究(13,571人)では d = 0.02(95%CI −0.06〜0.10、有意でない)。金銭的な利害がある著者の研究ほど大きな効果を報告していた、とも指摘。(出典: https://doi.org/10.1037/bul0000352)
  • 同著者の再反論(2023年、PsyArXiv の要旨)では「成長マインドセット介入の94%に交絡(効果を別の要因と区別できない設計)があった」「金銭的利害のある著者は肯定的な結果を2.5倍報告しやすかった」と述べ、下の Tipton らの再分析はデータの扱いを説明なく変えていると反論。(出典: https://doi.org/10.31234/osf.io/embhs)

支持側の主な研究

  • Yeager ほか (2019) *Nature*(2019年、DOI 10.1038/s41586-019-1466-y)、National Study of Learning Mindsets(PMC の本文で数値を確認)。米国の公立高校65校から無作為に選んだ全国代表サンプル、高校1年生12,490人を個人単位でくじ引き分け。1時間未満のオンライン教材2回。分析は事前登録し、データ収集は独立機関、ベイズ法による盲検の再分析も実施。(出典: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6786290/)
  • 成績が学校の中央値以下の生徒(6,320人): 主要教科の GPA が +0.10 点(95%CI 0.04〜0.16)、d = 0.11。
  • 成績上位の生徒: +0.01 点(有意でない)。
  • 全員について、翌年に上級数学(代数II以上)を取る割合が 33% → 36%(+3ポイント)。
  • 条件: 周りの生徒の雰囲気(挑戦を支える仲間の規範)がある学校で効果が大きかった。
  • 注意: Dweck 本人が共著者に入っている。独立評価(MDRC、Zhu ほか 2019)が下位層の成績効果を確かめたと Yeager & Dweck (2020) は書くが、MDRC の報告書そのものは未確認。(出典: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8299535/)
  • Burnette ほか (2023) *Psychological Bulletin*, DOI 10.1037/bul0000368。2002〜2020年のランダム化研究53の独立サンプル(Europe PMC の要旨で確認)。「効きそうな対象に絞り、実施の忠実度が高い」条件で、学業成績 d = 0.14(95%CI 0.06〜0.22)、心の健康 d = 0.32(95%CI 0.10〜0.54)。ただし今後の研究で予想される効果の幅(95%予測区間)は学業で −0.08〜0.35 と広く、ゼロや逆効果もありうる。全体平均の効果量は要旨に無く未確認。(出典: https://doi.org/10.1037/bul0000368)
  • Tipton ほか (2023) *Psychological Bulletin* の論評(Yeager が共著)。同じ文献を扱った2つのメタ分析が逆の結論になったのは、Macnamara & Burgoyne が「効果があるか無いか」を一括で問い、Burnette らは研究内のばらつきをモデル化したからで、後者が現在の推奨手法に近い、と主張。(出典: https://doi.org/10.1037/bul0000384)
  • Yeager & Dweck (2020)「What can be learned from growth mindset controversies?」*American Psychologist*。提唱者側のまとめ。OECD の PISA 2018(74か国、555,458人)では72か国で考え方と成績に正の関連があった(例外は中国とレバノン)、と紹介。効果は人と環境によって大きく違うことを認めている。(出典: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8299535/)

まとめ(両論)

  • 一致している点: 平均の効果はごく小さい(d=0.02〜0.14 の範囲)。効果は対象(成績下位・低所得)や環境(学校の雰囲気)で大きく変わる。
  • 割れている点: その小さな効果を「条件次第で意味がある」(Yeager、Burnette、Tipton)と見るか、「研究の設計の弱さと偏りによる見かけ」(Macnamara、Burgoyne)と見るか。
  • 職場・大人への効果: Sisk (2018) では大人の相関 r=.02、介入 d=0.08(有意でない)。企業の社員を対象にした質の高い比較実験は今回見つけられなかった(未確認)。(出典: https://englelab.gatech.edu/articles/2018/Sisk,%20Burgoyne%20et%20al.%20(2018)%20-%20Mindset%20and%20Academic%20Achievement.pdf)
  • 「ほめ方」の研究(Mueller & Dweck 1998)は実験室での短期の実験で、実生活での長期の効果を示したものではない。(出典: https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33)

使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)

A. 組織自身が使ったと公表した例

  1. Microsoft(米国)/会社自身の公表/採用サイトの企業文化ページ(日付未確認)https://careers.microsoft.com/v2/global/en/culture /「Our culture is rooted in a growth mindset」と、企業文化の土台に成長マインドセットを置くと明記。2017年度の年次報告書の株主への手紙(2017年10月16日、ナデラ CEO)にも「culture of growth mindset」という表現がある。(出典: https://careers.microsoft.com/v2/global/en/culture、https://www.microsoft.com/investor/reports/ar17/index.html)/結果: 会社自身の公表に、文化変革の効果を測った数値は見つからなかった。
  • 補足(第三者の記述): London Business School の Ibarra & Rattan(2019年6月、Ibarra 氏のサイト掲載)は、ナデラ氏が妻から Dweck の本を渡されたのは「2015年初め」とし、相対評価(スタックランキング)の廃止、17人の「カルチャー・キャビネット」での定義づくりなどを紹介。株価の最高値や Glassdoor でのナデラ氏の支持率95%を挙げるが、文化施策の効果を切り分けた評価ではない。なお本を渡された年は「2014年」と書く二次情報もあり、年は食い違っている(ナデラ氏の著書『Hit Refresh』原文は未確認)。(出典: https://herminiaibarra.com/microsoft-instilling-a-growth-mindset/)
  • 補足(報道): Fortune(2024年5月20日、Chloe Berger)は、ナデラ氏が「stay humble, stay hungry, and exhibit a growth mindset」と語り、最高人事責任者 Kathleen Hogan 氏が文化の転換は「tricky to navigate(舵取りが難しい)」だったと述べたと報じる。(出典: https://www.fortune.com/2024/05/20/satya-nadella-microsoft-culture-growth-mindset-learn-it-alls-know-it-alls/)
  1. 日本の事例: 企業・官公庁が自社の制度として成長マインドセットを使っていると公言した一次資料は、検索では見つけられなかった(なし)。日本マイクロソフトの取り組みを扱った記事は会員限定で開けず未確認。学校だよりなどで本を薦める言及はあるが、制度としての導入や成果の公表ではないため、ここには載せない。(出典URL: 未確認)

B. 研究・評価として公表された試行(組織の利用例には数えない)

  1. 英国 Education Endowment Foundation(EEF)が資金を出した学校での試行「Changing Mindsets」/2019年7月11日公表/評価は独立機関 NIESR/イングランドの101校・小学6年生5,018人のランダム化比較試験(2016年9月〜2017年2月)。教員研修と8回の授業。(出典: https://niesr.ac.uk/publications/changing-mindsets-effectiveness-trial)/結果: 全国学力テスト(KS2)の国語・算数に差は見られなかった。教員や児童は「考え方が変わった」と感じていた(自己評価)。評価者は、対照校の教員の多くがすでに成長マインドセットを知っていた・一部で使っていたことを理由の候補に挙げている(NIESR の評価者ブログで確認。EEF 本体のページは403で開けず、効果量の数値は未確認)。(出典: https://niesr.ac.uk/blog/growing-pains-growth-mindset-effects-are-hard-measure-doesnt-mean-its-not-helping)

C. 手引き・解説・研修会社の宣伝(事例には数えない)

  • 日本語の解説記事(Forbes JAPAN の寄稿記事 2026年2月3日、HR 系メディア、研修会社のサイトなど)は多いが、いずれも解説や研修の宣伝で、組織の利用の公表ではない。Forbes JAPAN の記事が引く「企業の80%」などの数字は TalentLMS(学習管理ツール会社)の調査で、特定企業の公表ではない。元の TalentLMS 調査は開いておらず未確認。(出典: https://forbesjapan.com/articles/detail/90830)

組織自身の公表例は Microsoft の1件。研究・評価として公表された試行は英国 EEF/NIESR の1件(学力テストに差なし。実施したのは匿名を含む学校群で、EEF は資金提供と評価の公開主体)。日本で制度として導入した公表例は「なし」。

うまくいかなかった例と批判

原典を読む

原典で確かめたこと
  • 提唱者: 米国の心理学者 Carol S. Dweck(スタンフォード大学)。「能力は努力や学び方で伸びる」と考える成長マインドセットと、「能力は生まれつきで変わらない」と考える固定マインドセットを区別した。(出典: https://www.edweek.org/leadership/opinion-carol-dweck-revisits-the-growth-mindset/2015/09)
  • 学術上の土台(年の確認): 「マインドセット」という一般向けの言葉より前に、Dweck は「暗黙の知能観(implicit theories)」として研究していた。確認できた論文は次の3本。
  • Dweck & Leggett (1988)「A social-cognitive approach to motivation and personality」*Psychological Review* 95(2), 256-273, DOI 10.1037/0033-295X.95.2.256。難しい課題でねばる「熟達志向」と、すぐあきらめる「無力感」の2つの行動パターンを、「自分の能力についての考え方 → 目標の選び方 → 行動」という流れで説明するモデル(ComPADRE の書誌と要旨で確認)。(出典: https://www.compadre.org/portal/items/detail.cfm?ID=16113)
  • Mueller & Dweck (1998)「Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance」*Journal of Personality and Social Psychology* 75(1), 33-52。小学5年生を対象にした6つの実験で、「頭がいいね」とほめられた子は「よくがんばったね」とほめられた子より、失敗のあとに粘りが弱く、楽しさが下がり、成績も悪かった(Europe PMC の要旨で確認。頁は要旨に無く 33 のみ確認、終頁は未確認)。(出典: https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33)
  • Blackwell, Trzesniewski & Dweck (2007) *Child Development* 78, 246-263。中学1年生373人の追跡で、「知能は伸びる」と考える生徒は2年間で成績が上向いた。介入研究は実験群48人・対照群43人の小規模なもの(Europe PMC の要旨で確認)。(出典: https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2007.00995.x)
  • 一般向けの原典: Carol S. Dweck『Mindset: The New Psychology of Success』Random House、2006年(Open Library の書誌で初版年2006・出版社 Random House を確認)。2016年に改訂版が出ている(同書誌の刊行年に2016を確認。改訂内容は未確認)。(出典: https://openlibrary.org/search.json?q=mindset+new+psychology+of+success+dweck)
  • それ以前の可能性: 1970年代の「学習性無力感」と子どもの失敗反応の研究がさらに前にあるとされるが、今回は論文を開いておらず未確認。また「growth mindset」という言葉が2006年の本で初めて使われたかも未確認。公開ページでは「研究の土台は遅くとも1988年の論文、一般向けに広く紹介したのは2006年の著書」と書くのが安全。(出典URL: 未確認)
  • 原典の主張(自分の言葉で): 人が「自分の能力は変えられるか」をどう考えているかで、失敗の受け止め方が変わる。固定的に考えると、失敗は「自分には才能がない証拠」になり、挑戦を避ける。伸びると考えると、失敗は「やり方を変えるための情報」になり、粘って工夫を続けられる。ほめ方(才能か、過程か)がこの考え方に影響する、という主張。(出典: https://www.compadre.org/portal/items/detail.cfm?ID=16113、https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33)
  • Dweck 本人の注意(偽の成長マインドセット): Dweck は2015年9月の Education Week への寄稿で、同僚の Susan Mackie が「false growth mindset(偽の成長マインドセット)」の広がりに気づいたと書いている。学べていないのに「よくがんばったね!全力を出したね!」とその場の気分のためだけに努力をほめること、「成長マインドセットは努力だけの話ではない」「学力の差を埋めるためのもので、隠すためのものではない」と述べている。(出典: https://www.edweek.org/leadership/opinion-carol-dweck-revisits-the-growth-mindset/2015/09)

出典

  1. https://www.compadre.org/portal/items/detail.cfm?ID=16113
  2. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33
  3. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2007.00995.x
  4. https://openlibrary.org/search.json?q=mindset+new+psychology+of+success+dweck
  5. https://www.maruzenjunkudo.co.jp/products/9784794221780
  6. https://englelab.gatech.edu/articles/2018/Sisk,%20Burgoyne%20et%20al.%20(2018)%20-%20Mindset%20and%20Academic%20Achievement.pdf
  7. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6786290/
  8. https://doi.org/10.1037/bul0000352
  9. https://doi.org/10.1037/bul0000368
  10. https://doi.org/10.1037/bul0000384
  11. https://doi.org/10.31234/osf.io/embhs
  12. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8299535/
  13. https://www.edweek.org/leadership/opinion-carol-dweck-revisits-the-growth-mindset/2015/09
  14. https://niesr.ac.uk/publications/changing-mindsets-effectiveness-trial
  15. https://niesr.ac.uk/blog/growing-pains-growth-mindset-effects-are-hard-measure-doesnt-mean-its-not-helping
  16. https://careers.microsoft.com/v2/global/en/culture
  17. https://www.microsoft.com/investor/reports/ar17/index.html
  18. https://herminiaibarra.com/microsoft-instilling-a-growth-mindset/
  19. https://www.fortune.com/2024/05/20/satya-nadella-microsoft-culture-growth-mindset-learn-it-alls-know-it-alls/
  20. https://forbesjapan.com/articles/detail/90830

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