GROWモデル(GROW model)
まず知る
- GROW は、Goal(目標)→ Reality(現状)→ Options(選択肢)→ Will(意思・次の一歩)の順に質問して、相手に自分で答えを出してもらう対話の型。(出典: https://www.performanceconsultants.com/glossary-of-coaching-terms )
- 1980年代の英国で Alexander・Fine・Whitmore の3人が作ったとされ、1992年の Whitmore『Coaching for Performance』で広く知られた。「Whitmore が考案」と言い切るのは不正確。(出典: https://legacy.insideoutdev.com/?p=151 / https://openlibrary.org/search.json?title=coaching+for+performance&author=whitmore / https://www.performanceconsultants.com/glossary-of-coaching-terms )
- Whitmore 自身は「大事なのは型ではなく、相手の気づきと責任を引き出すこと」と位置づけている。質問を順に読み上げるだけでは尋問になる。(出典URL: 未確認)
- 根拠は中〜弱。職場コーチング全体には効果を示すメタ分析があるが、GROW の型そのものの検証は小規模な試験にとどまる。(出典: https://research.aston.ac.uk/en/publications/the-effectiveness-of-workplace-coaching-a-meta-analysis-of-learni/ / https://hrcak.srce.hr/en/346049 / https://doi.org/10.1177/15480518231171748 )
- 日本でよく見る「GROW(Resource を加えた5段階)」は原典の4段階とは別の派生版。(出典URL: 未確認)
根拠の強さと限界
評価: 中〜弱(職場コーチング全体には一定の実証があるが、GROW という型そのものの検証は小規模)。
- コーチング全体の実証: Jones, Woods & Guillaume (2016)「The effectiveness of workplace coaching」*Journal of Occupational and Organizational Psychology* 89(2), 249-277。Aston 大学の書誌ページで要旨を確認。17研究、組織の成果全体への効果 δ=0.36(スキル 0.28、感情面 0.51、個人の成果 1.24)。ただし GROW には触れておらず、上司が部下に行うコーチングは除外されている。1on1 で上司が GROW を使う場面にはそのまま当てはまらない。(出典: https://research.aston.ac.uk/en/publications/the-effectiveness-of-workplace-coaching-a-meta-analysis-of-learni/ )
- GROW 専用の研究: 教員・校長向け GROW コーチングのスコーピングレビュー(Sadewo ら、*Croatian Journal of Education* 27(4), 2025、2015〜2022年の20研究)を hrcak のページで確認。効果の大きさを統合した研究ではなく、「どの領域で使われているか」の整理にとどまる。(出典: https://hrcak.srce.hr/en/346049 )
- ランダム化比較試験: ナイジェリアの学校管理職77人を対象にした GROW ベースの認知行動コーチング(Igu ら 2023、*Journal of Leadership & Organizational Studies*)で、燃え尽きの低下と自己効力感の向上が報告されている、という要旨を検索の要約でだけ見た(EBSCO は403で開けず、未確認)。同じ地域の Zoom 版試験(109人、2022年)も要旨未確認。小規模・自己評価・待機群との比較であり、独立した追試は見つからなかった。(出典: https://doi.org/10.1177/15480518231171748 )
- 型への批判: Grant (2011)「Is it time to REGROW the GROW model?」*The Coaching Psychologist* 7(2), 118-126 は、書誌だけ検索で確認(本文未確認)。Passmore & Cantore (2012) が「目標に偏り、人生の意味を扱いにくい」と批判したことは Wikipedia 経由。(出典: https://www.sgcp.org.uk/sgcp/publications/the-coaching-psychologist/volume-7-issue-2---december-2011-.html / https://en.wikipedia.org/wiki/GROW_model )
- まとめ: 「コーチングは効く」は中程度の根拠がある。「GROW の順番で聞くから効く」は、検証が少ない。
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- 神奈川県立総合教育センター(日本)/2025年3月(PDF の作成日)/https://www.pen-kanagawa.ed.jp/edu-ctr/gakkoshien/documents/6_06-cyu-tai.pdf /中学校の保健体育(バスケットボール)で、生徒同士が GROW の順に対話して目標・練習方法を決める学習活動の実践例。学習カードに各段階を書かせる工夫を紹介。/結果: この2ページの資料には効果の数値は無い。職場ではなく授業での応用である点に注意。
- 日本企業の事例: 企業が自社で GROW を使っていると公言した公式ブログ・資料は、検索では見つけられなかった(未確認)。研修会社アイディア社の事例ページ(2026年7月)は顧客名が伏せられており、評価もその会社のコーチによるもののため、事例としては採用しない。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- なし(確認できた範囲で)。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- GitLab(全社のリーダーシップ・ハンドブック)/2026年(ページの最終更新 2026-05-11)/https://handbook.gitlab.com/handbook/leadership/coaching/ /コーチングの節で GROW を「コーチング対話の4段階」として掲載。W は「Way Forward:具体的な行動と期限に合意して、本人の責任をはっきりさせる」。代替として CLEAR、OSCAR モデルへのリンクも置いている。/結果: 効果の数値は無い。【会社の手引き(ハンドブック)への掲載で、使った実績の公表ではないため④(採用方針)に置いた】
- Health Education England Kent, Surrey and Sussex(英国の公的な医療人材育成機関)/2022年8月(PDF の作成日)/https://kss.hee.nhs.uk/wp-content/uploads/sites/15/2022/08/Coaching-for-success-TGROW.pdf /研修医などを指導する「スーパーバイザー向けコミュニケーション研修」の教材として、T(Topic)を足した T-GROW を掲載。「対話は必ずしもモデルの順番どおりでなくてよい」と明記。/結果: 効果の数値は無い。【研修教材で、使用実績の公表ではないため④に置いた】
- カナダ公務員学校(Canada School of Public Service)/2020年8月(PDF の作成日)/https://ecolecanada.gc.ca/tools/jobaids/pdfs/grow-model-eng.pdf /幹部研修(Executive Learning)の補助資料として、GROW を使った個人・グループでのコーチング/メンタリングの進め方を掲載(PDF 本文を抽出して確認。発行者名はファイル内のテンプレート名から推定)。/結果: 記載なし。【研修の補助資料で、使用実績の公表ではないため④に置いた】
- InsideOut Development(Fine の会社)、Performance Consultants(Whitmore の会社)は GROW を自社の商品として扱っており、利用者ではなく提供者。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は1件(神奈川県立総合教育センターの授業実践。職場ではなく授業での応用)。GitLab・Health Education England KSS・カナダ公務員学校は手引き・教材への掲載で④。
うまくいかなかった例と批判
- Grant (2011) が「GROW をそのまま教えることの問題」を論じ、改良版(RE-GROW)を提案している(書誌のみ確認、本文未確認)。(出典: https://www.sgcp.org.uk/sgcp/publications/the-coaching-psychologist/volume-7-issue-2---december-2011-.html )
- Passmore & Cantore (2012) は「目標設定に偏るので、キャリアや人生の相談には向きにくい」と批判し、Whitmore らは2013年に「GROW は超個人的な目標も含むよう発展した」と応じた(いずれも Wikipedia 経由、本体未確認)。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/GROW_model )
- GitLab は GROW の代わりの選択肢として CLEAR モデルの動画を載せている(「GROW の代わりに」と明記。やめたとは書いていない)。(出典: https://handbook.gitlab.com/handbook/leadership/coaching/ )
- 「GROW をやめた」と公言する組織は見つからなかった。
原典を読む
- 原典: John Whitmore『Coaching for Performance』初版 1992年(Nicholas Brealey)。第5版は2017年(Wikipedia の人物ページ経由)。現行の第6版は Performance Consultants CEO の Tiffany Gaskell との共著(同社ページで確認。刊行年は未確認)。
- 邦訳: ジョン・ウィットモア『はじめのコーチング:本物の「やる気」を引き出すコミュニケーションスキル』清川幸美訳、ソフトバンクパブリッシング、2003年8月、ISBN 4-7973-2305-1(国立国会図書館の書誌で確認)。原書の何版の訳か、GROW の記述箇所は未確認。新刊書店では入手しにくい可能性がある。
- 別系統の当事者の本: Alan Fine & Rebecca R. Merrill『You Already Know How to Be Great』2010年(Wikipedia 経由、邦訳は未確認)。
原典で確かめたこと
- 提唱者・年: 1980年代の英国で、Graham Alexander、Alan Fine、John Whitmore の3人が共同で作ったとされる。Fine の会社 InsideOut Development の公式ページ(legacy.insideoutdev.com/?p=151)を開いて、「英国で3人の共同開発者が作った」「3人が共同で所有し、パブリックドメインではない」という記述を確認した(このページに年の明記はない)。InsideOut は利害関係のある当事者なので、帰属の主張としてだけ扱う。(出典: https://legacy.insideoutdev.com/?p=151 )
- 最初の出版: Whitmore『Coaching for Performance』初版、1992年、Nicholas Brealey。Open Library の書誌(初出 1992年、出版社 Nicholas Brealey)と、Whitmore が共同創業した Performance Consultants の公式ページ(「1992年に『Coaching for Performance』で世界の組織に紹介された」)で確認した。(出典: https://openlibrary.org/search.json?title=coaching+for+performance&author=whitmore / https://www.performanceconsultants.com/glossary-of-coaching-terms )
- 名前の由来: Wikipedia によれば、Whitmore は2009年の論考で「GROW という名前は Max Landsberg が Graham Alexander との会話で付けた。名前が付く前からモデルは使われていた」と述べている。Whitmore 2009年論考(Annual Review of High Performance Coaching and Consulting)の本体は未確認。Landsberg『The Tao of Coaching』初版1996年も Wikipedia 経由で、未確認。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/GROW_model )
- W の意味: Performance Consultants のページでは「Will(意思)」、Institute of Coaching の追悼文では「Will/What Next」、GitLab のハンドブックでは「Way Forward」、HEE の教材では「Way forward / When / Will / Who」。版や使い手によって揺れがある。(出典: https://www.performanceconsultants.com/glossary-of-coaching-terms / https://www.performanceconsultants.com/why-w-grow-matters-where-coaching-turns-into-performance/ / https://instituteofcoaching.org/memoriam-sir-john-whitmore-1937-2017 / https://handbook.gitlab.com/handbook/leadership/coaching/ / https://kss.hee.nhs.uk/wp-content/uploads/sites/15/2022/08/Coaching-for-success-TGROW.pdf )
- 源流: テニスコーチ Timothy Gallwey の「インナーゲーム」(1974年)の影響を受けたとされる(Wikipedia 経由)。Whitmore は1979年に Gallwey の訓練を受けたコーチと英国でインナーゲームを立ち上げた(Wikipedia の人物ページ経由)。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/GROW_model / https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver) )
- Whitmore の経歴: 1961年に英国サルーンカー選手権、1965年に欧州ツーリングカー選手権で優勝したレーシングドライバー(Wikipedia の人物ページで確認)。2017年4月に死去(Institute of Coaching の追悼文で確認)。(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver) / https://instituteofcoaching.org/memoriam-sir-john-whitmore-1937-2017 )
- 原典の主張(自分の言葉で): コーチングの目的は、相手の「気づき(awareness)」と「責任(responsibility)」を高めること。GROW はそのための質問の順番にすぎない。目標、現状、選択肢、意思の順に聞くと、相手が自分で答えを見つけ、自分で決めた行動として引き受けやすくなる、という主張。(出典URL: 未確認)
- 注意: 「気づきと責任という文脈がなければ GROW にはほとんど価値がない」という Whitmore の一文は、第5版の読者ハイライト(Goodreads の検索結果)でしか見ていない。本文では未確認。(出典URL: 未確認)
出典
- https://en.wikipedia.org/wiki/GROW_model
- https://legacy.insideoutdev.com/?p=151
- https://www.performanceconsultants.com/glossary-of-coaching-terms
- https://www.performanceconsultants.com/why-w-grow-matters-where-coaching-turns-into-performance/
- https://instituteofcoaching.org/memoriam-sir-john-whitmore-1937-2017
- https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)
- https://openlibrary.org/search.json?title=coaching+for+performance&author=whitmore
- https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000004196324
- https://research.aston.ac.uk/en/publications/the-effectiveness-of-workplace-coaching-a-meta-analysis-of-learni/
- https://hrcak.srce.hr/en/346049
- https://handbook.gitlab.com/handbook/leadership/coaching/
- https://kss.hee.nhs.uk/wp-content/uploads/sites/15/2022/08/Coaching-for-success-TGROW.pdf
- https://ecolecanada.gc.ca/tools/jobaids/pdfs/grow-model-eng.pdf
- https://www.pen-kanagawa.ed.jp/edu-ctr/gakkoshien/documents/6_06-cyu-tai.pdf
- https://ide-development.com/case/grow-1on1-question-training-case/
- https://doi.org/10.1177/15480518231171748
- https://www.sgcp.org.uk/sgcp/publications/the-coaching-psychologist/volume-7-issue-2---december-2011-.html
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