目標設定理論とSMART
まず知る
- SMARTは1981年のDoranの短い実務提案で、原典の5語は Specific / Measurable / Assignable / Realistic / Time-related。今の「Achievable / Relevant」は後年の版。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- Doran自身が「全部満たさなくてよい。数値化できない目標もある」と書いている。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 実証の中心はSMARTではなく目標設定理論で、「具体的で難しい目標」が曖昧な目標より成績が高い(メタ分析で中〜大の効果)。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
- 「達成確率5割〜7割」が最適という理論ではない。難しいほど成績は上がるが、能力の限界やコミットメント切れで頭打ち。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
- 数字だけを追うと不正や視野狭窄を招く。目標は少数に絞り、副作用を点検する。(出典: https://experts.arizona.edu/en/publications/goals-gone-wild-the-systematic-side-effects-of-overprescribing-go/)
使い方(手順と記入例)
手順
- 達成したいことを、まずはそのまま1文で書く(例:「仕事をもっと早くこなす」)。
- S(Specific=具体的)と M(Measurable=測れる):何を・どれだけかを数えられる数字で書き直し、数字にしにくければ「終わった状態」で書く。
- A(Assignable=誰がやるか)と R(Realistic=今ある時間やお金で届くか):担当者を決め、使える時間などで届くかを確かめる(よく見る「Achievable(達成できる)/Relevant(目的に合う)」は後から広まった版)。
- T(Time-related=期限):締め切りの日付と、途中で確かめる日を1つ書く。
- 他の人に読んでもらい、「達成か未達か」を同じように判定できるか確かめ、できなければ2に戻る。
記入例
架空の場面:入社1年目のEさんが、上司に「今期の目標を書いて」と言われた。
- ①そのまま:「Excel をもっと使えるようになる」。
- ②S・M:「毎月の売上集計表を関数を使って自分で作れるようにし、作業時間を今の3時間から1時間にする」。
- ③A・R:やるのは自分。わからない所は隣の席の先輩に週1回15分聞く約束をした。仕事のあと週2回30分の練習なら取れるので、届く範囲と判断した。
- ④T:期限は6月末。途中の確認日は5月末で、その日に集計表を1回作って時間を計る。
- ⑤判定チェック:先輩に読んでもらい、「6月の集計が1時間以内に終われば達成」で判定が一致した。
できたかの目安
- 他の人が読んで、達成か未達かを迷わず判定できる文になっていれば使えている。「頑張る」「もっと」が残っていれば未完成。
なぜ効くか(短く)
SMART は1981年にコンサルタントのドランが出した短い実務上の提案で、本人も「5つ全部を満たさなくてよい」と書いており、SMART の型を使うと成果が上がるかを比べた研究は見つかっていません(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)。一方、その土台にある「具体的で難しい目標は、『ベストを尽くせ』のようなあいまいな目標より成績を高める」という目標設定理論は、メタ分析(多くの研究をまとめた分析)で中〜大の効果が報告されています(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)。目標がはっきりすると、注意と努力の向かう先が決まり、粘り強さややり方の工夫も引き出されるためと説明されています(出典: 同上)。ただし数字だけを追うと、視野が狭くなったり不正を招いたりするという批判もあるので、目標は少なくしぼります(出典: https://experts.arizona.edu/en/publications/goals-gone-wild-the-systematic-side-effects-of-overprescribing-go/)。
根拠の強さと限界
- 目標設定理論: 強。2002年論文によれば、目標の難度と成績の関係はメタ分析で d=.52〜.82、具体的で難しい目標と「ベストを尽くせ」の比較は d=.42〜.80(Locke & Latham 1990 を引用)。ただし課題が複雑だと効果は小さくなる(Wood, Mento & Locke 1987 のメタ分析で難度効果は最複雑課題 d=.48、最単純課題 d=.67。具体的な難目標対ベスト目標では .41 対 .77)。いずれも2002年論文内の引用値で、原メタ分析は未確認。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
- SMART(5語の型そのもの): 弱〜中。SMARTの各要素(具体性・難度・期限)は目標設定理論が支持するが、「SMARTの型を使うと成果が上がる」という比較研究は今回の調査では見つけられなかった(未確認)。Doran自身も実証ではなく実務提案として書いている。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 批判: Ordóñez, Schweitzer, Galinsky, Bazerman (2009) "Goals Gone Wild"(*Academy of Management Perspectives* 23(1), 6-16)は、目標の過剰な処方が視野狭窄、リスク選好の歪み、不正の増加、学習の低下、内発的動機の低下を招くと論じる。アブストラクト相当の要約を大学リポジトリで確認(本文は未確認)。(出典: https://experts.arizona.edu/en/publications/goals-gone-wild-the-systematic-side-effects-of-overprescribing-go/)
- 再現性: 2002年論文は、Atkinson の「中程度の難度で努力が最大」という逆U字は目標を測定した場合は再現せず、目標が最も難しいほど成績が最高になる線形関係だったと述べる。能力の限界か、難しい目標へのコミットメントが切れた時に初めて頭打ちになる。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
使われた例(組織自身の公表と、研究・参考・手引きを分けて)
① 組織自身が使ったと公表した例(数えるのはここだけ)
- なし(確認できた範囲で)。日本の組織が自ら公言した事例は、検索(公的機関・企業ブログ・プレスリリース)では見つけられなかった。民間の解説記事ばかりで、導入結果の自社公表は確認できず。推測では書かない。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- Gary P. Latham ら(研究者本人の報告)/1975年(Latham & Baldes)/Locke & Latham 2002 の要約/組合員のトラック運転手に積載量の目標(法定積載量の90%)を課し、60%→90%に上昇、9か月で会社が25万ドル節約と報告。同じ著者らによる別研究で18週間270万ドルの節約(Latham & Saari 1982)。企業自身の発表ではなく研究者の学術報告である点に注意。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- University Hospitals Birmingham NHS Foundation Trust(英国)/公開時期不明/公式教育サイトの「SMART objectives」ガイド(https://education.uhb.nhs.uk/career-development/appraisals/appraisal-guidance/smart-objectives/)/職員の年次評価(appraisal)での仕事上の目標の書き方として、Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound の5項目で点検するよう案内。成果の数値は記載なし(使用方針の公表のみ)。【使用方針の公表で、使った実績の公表ではないため④(採用方針)に置いた】
- George T. Doran 本人/1981年/*Management Review* 論文(上記PDF)/企業の目標設定の書き方として提示。例示として「期限までに在庫管理システムを導入し、在庫費用を100万ドル削減。費用は200人時・1.5万ドルまで」の形を挙げる。これは例示で実績ではない。【原典の例示で、使用実績ではない】
- NHS England(英国)/確認不十分/検索結果の要約では、取締役評価ガイドが目標をSMARTにするよう求めるとされるが、ページ本体を開いて確認できなかったため事例に数えない(要再確認: https://www.england.nhs.uk/long-read/board-member-appraisal-guidance/)。【方針の文書で、しかも未確認】
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は「なし」。研究報告における実施例は1件(Latham らのトラック運転手の研究。企業自身の発表ではない)。UHB の目標ガイドは採用方針で④、Doran の例示と NHS England(未確認)も④。
うまくいかなかった例と批判
- 組織が「SMART/目標設定をやめた・失敗した」と公言した例は、今回は確認できなかった。
- 研究者による批判: Ordóñez ら (2009) "Goals Gone Wild"(上記)。目標を使う場合は副作用への「警告ラベル」を付けるべきと提案(要約のみ確認)。(出典: https://experts.arizona.edu/en/publications/goals-gone-wild-the-systematic-side-effects-of-overprescribing-go/)
- 推進側自身の限界の明記: Locke & Latham (2002) は、難しい業績目標がリスクの高い方略選択を増やすこと、意識外のプロセスを扱えないことを限界として挙げる。Doran (1981) も「全目標を定量化すべきでない」と述べる。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf、https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
原典を読む
- 原典(無料で読めるもの): Doran 1981(上記PDF、2ページ)、Locke & Latham 2002(上記PDF、13ページ)。若手は2ページのDoranから読むのが速い。
- 邦訳: Locke & Latham の邦訳書は今回の検索では確認できなかった(未確認)。NDLサーチの著者名検索でも該当なし。
- 日本語で読める関連書籍は、実在確認が取れたものを現時点で挙げられない。無理に推薦しない。
原典で確かめたこと
SMART(確認済み)
- 提唱: George T. Doran。「There's a S.M.A.R.T. way to write management's goals and objectives」、*Management Review*(AMA Forum)1981年11月号 pp.35-36。原文PDF(decisionskills.com 掲載のスキャン)を画像で実際に読んだ。DOIは未確認。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 原典の主張: 多くの管理者は「目標とは何か、どう書くか」を知らない。目標は「達成すべき結果の文」であり、書くときは頭文字SMARTを思い浮かべよ、という実務向けの短い提案。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 原典の5語は Specific / Measurable / Assignable(誰がやるか)/ Realistic(利用可能な資源で現実的に達成できる結果)/ Time-related。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 原典は「全目標が5つ全部を満たす必要はない」「中間管理職・スタッフ部門などでは定量化は現実的でない場合がある」と明記し、「基準に近づくほど目標は賢くなる」という指針扱いにしている。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
- 著者肩書: Management Assistance Programs 社長(コンサルタント)、元 Washington Water Power Company 企業計画ディレクター(原文の著者注)。(出典: https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf)
目標設定理論(確認済み)
- 提唱: Edwin A. Locke と Gary P. Latham。体系書は *A Theory of Goal Setting and Task Performance*(Prentice Hall, 1990)。総説は「Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey」*American Psychologist* 57(9), 705-717, 2002。2002年論文のPDF全文を読んだ。DOIは論文PDF内では未確認。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
- 主張(2002年論文の要約): 具体的で難しい目標は「ベストを尽くせ」より高い成果を生む。目標は(1)注意と努力の方向づけ、(2)努力量、(3)持続、(4)方略探索を通じて効く。効果を左右するのはコミットメント、フィードバック、自己効力感、課題の複雑さ。複雑な課題では学習目標が有効な場合がある。限界として、リスク選好の悪化や意識外のプロセスを扱えない点を著者自身が挙げる。(出典: https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf)
出典
- https://goal-lab.psych.umn.edu/orgpsych/2020/readings/5.%20Motivation/Locke%20&%20Latham%20(2002).pdf
- https://www.decisionskills.com/uploads/5/1/6/0/5160560/doran_1981_s.m.a.r.t-way-management-review.pdf
- https://en.wikipedia.org/wiki/SMART_criteria
- https://education.uhb.nhs.uk/career-development/appraisals/appraisal-guidance/smart-objectives/
- https://experts.arizona.edu/en/publications/goals-gone-wild-the-systematic-side-effects-of-overprescribing-go/
- https://ndlsearch.ndl.go.jp/api/opensearch
記入テンプレを準備しています
このフレームワークを、仕事の場面でそのまま使えるシートにまとめています。欲しいものを1つ選んでください。
ありがとうございます。準備ができたら、このサイトでお知らせします。
試作中のため、選んだ結果はこの端末の中だけに記録されます。外部には送られません。